病院へ行く時、私はいつもチャチャを抱っこをして、連れて行っていた。
猫歳7ヶ月目辺りから、身体も大きくなってきたので、念の為、ハーネスだけ着用させていた。
チャチャは抱っこ好きだったし、怖い事があると私にしがみついてきていたから……、
チャチャにとって、それが一番安心する方法なのだと思っていた。
――大きな勘違い、命を預かる飼い主としてあるまじき無知さ、浅はかな行為だった。
病院からの帰り道……、家まであと50mほどの距離の場所にて。
歩道に隣接する休眠畑(自家用?)の畑に生える木々の間から、
「ギャーギャー」と、数羽の鳥がないた。
その、一刹那。
「ウー!」と、チャチャの低い唸り声を耳に感じた時には、チャチャは私の腕をすり抜け、肩から歩道へと飛び降りていた。
駆け出そうとしたチャチャの身体をハーネスが引きとめ、チャチャは直立、伏せの体勢をとった。
顔は、車道の方向を向いていた。
目の前の車道を、1台の車が音を立てて通り過ぎた。
私は焦り、必死にチャチャを捕まえようとした。
だが――私も予期しない出来事に、頭がパニック状態になっていた。
結果、数十秒の行動の遅れ、対処の悪さが生じ、チャチャは凄い力と勢いで何度もその場で飛び上がり、暴れ、ハーネスが外れた。
ハーネスが外れたチャチャは、一目散に自宅とは逆方向に走り出し……、車道とは逆側のガードレールの下をくぐり、畑に至る急坂をたった3歩ほどで駆け下り、近くの大きな葉っぱの作物の茂みへと飛び込んだ。
悪夢、だった。
私は何度もその場でチャチャの名を呼んだ。
でもチャチャは、顔すら見せようとはしない。
――そして私は、大きなミスをした。
その場で家人を呼べばよかったものを……、そんな事すら思いつかず、私はチャチャが飛び込んだ作物の茂みの所へ行くしかないと考えた。
私の目の前には、高さ1mほどのガードレールがあった。
柵状になっていたから、乗り越えられない事はなかったが、その奥は畑の土の大地まで、約3m幅・落差1.5mほどの砂の下り坂があった。
暑さと突然の出来事で、ひどい眩暈が生じていて、とても今は、ガードレールを乗り越えられないと感じた。
そこで私は、ガードレールの設置場所まで1mほど移動し、そこから坂を下り畑に侵入、チャチャが飛び込んだ作物の茂みへと近寄った。
名前を呼びながら、茂みをそっと掻き分け、チャチャを探した。
――チャチャは、どこにもいなかった。
チャチャを見失った私は、そこで初めて家人に連絡。
即刻、飛んできた家人と私の2人で、畑を中心にチャチャを探し始めた。
――30分後、家人が妹さんに連絡。すぐに駆けつけてくれた。
同時に、かかりつけの動物病院に連絡。
3人で捜索。
――程なく、畑の持ち主であるおじいさまが騒ぎを聞きつけ、様子を見に来た。
私達はチャチャの失踪で頭がパニくっており、畑が私有地である事も失念していた……。
慌てて謝罪し事情を話すと、おじいさまは「いつでも好きなだけお探し下さい。うちにも猫がいるし、見掛けない猫を見たらお知らせしますよ」と優しく仰って下さった。とてもありがたかった。
日中の捜索は体力の消耗が激しく、交代で自宅休憩を取りつつ行った。
……但し、私はチャチャを逃がしてしまったショックが強く、捜索者としては殆ど使い物にならない状態だった。
休憩中、家人がネットで『迷い猫の探し方』のサイトを幾つか、提示しておいてくれた。
それに従い、夕方前、交番に連絡。
(在住市に『警察署』はない為、市を管轄している交番に連絡となった)
迷子猫のチラシ原稿を作り始める。
周囲が暗くなり始めた頃、チャチャの使用済み猫砂を撒く。
逃走地点〜家は、歩道の隅に。
そこから、自宅である集合住宅の敷地内〜階段、自宅のドアの前まで。
――ドアの開け放しは、虫の侵入が頭をよぎり、恐ろしすぎて、実行ができなかった。
せめて帰ってきた時の音だけは聞こえるようにと、通路側にある窓(網戸あり)を開けておいたが、実際問題、家の中にいると窓を開けようが閉めようが、外の音は聞こえなかった。
夜、深夜と逃走地点〜自宅を、エサを手に名前を呼びながら歩き回ったが、チャチャは出てこなかった。
AM 08:15〜、自宅窓からチャチャを目撃。
目撃場所は、逃走地点より100m程先の、畑の中央にある水路際。
窓から名前を呼ぶも、チャチャは気付かなかった。
家人に見張っててもらい、私が外に出た。
しかしチャチャは、私が玄関を出た時には、水路奥の住宅街へと行ってしまっていた。
水路奥の住宅街に配るチラシを準備。
近所のコンビニにて、A4カラーコピー、40枚。
(ついでに店長さんにお願いして、お店にチラシを提示して頂いた)
チラシは10枚、ポスター用にビニールがけ。
愛護センターへ連絡、受付番号を貰う。
市役所を経て保健所等にも連絡をするが、「捕獲は行ってません」との事。
(この地域の愛護センターでは、事故に遭ったりで怪我をした猫ちゃんを収容・数日間保護する場所、との事。保護期間が過ぎてしまった後の事は、怖くて聞けなかった……。
保護された猫ちゃんの情報は、TEL問い合わせ・Webでの確認が可能。
Webページの情報はこまめに更新されていたので、毎日確認。
TEL確認も、3日に1度、行いました。
市役所の「捕獲は行っていない」の意味は、この市では野良猫駆除等を行っていない、との意味で、少しだけ安心しました)
その後、捜索へ。
ポスターは、逃走地点近辺、チャチャを目撃した水路奥の住宅街の電柱等に貼った。
チラシのポスティング。
道行く人、お庭等に出ていた住人の方には、チラシを手渡し。
水路際近辺のお宅には、手渡しを行いたく、チャイムを鳴らしてみたが、応答頂けなかった。
日中・夜・深夜――と、『自宅〜逃走近辺〜水路際住宅地』を捜索するも、成果なし。
(以下、このルートを『捜索』と記述。
捜索は、猫探しのみの行動・半径100m範囲で、かかる時間は1回あたり40分〜1時間。
道行く人・住人の方にチラシを渡したりしながらだと、2時間〜3時間半ほどはかかる)
捜索は、朝・日中(チラシ配布兼)・夜・深夜――成果なし。
日中に、チラシを更に、40枚コピー。
昨日捜索した住宅街には、かなりの数の外飼い猫ちゃんがうろついているのが判明し、チャチャが遠くへ追いやられてしまう可能性も考えられた為、
その住宅街の奥の方(逃走地点から直線距離150m範囲)にもチラシをポスティング、手渡しも。
14:30頃、目撃情報のTELがあった。
近くにいた為、すぐに現場に向かったが――名前を呼んだところ、なきながら出てきたのは、チャチャと同じ毛並みのオス猫くん(仮名・Oくん)。
情報を下さった方が近くにいらっしゃったので、再確認したところ、
「色はわからなかったが、首輪の白い模様が見えた」との事で、Oくんとは別に、チャチャがいたのかな、と思う。
家人もやってきて、2人で目撃場所近辺で名前を呼び捜索したが、チャチャの姿を見ることは出来なかった。
市内・環境課で番号を教わり、念の為、清掃局関連へ問い合わせをした。
1件、事故で亡くなっていた猫ちゃんがいたとの事。
同じ市内ではあるが、かなりの遠方だったので、チャチャではないと判断。
――でも、猫ちゃんの訃報には、複雑な心境……。
この日辺りから、藁をも掴む気持ちで、ネットの迷子猫探し掲示板に、チャチャの記事を投稿。